前にどなたかがブログで取り上げられていたヘルマン・シェルヒェンとルガノ放送管のベートーヴェン交響曲集のことが面白そうだったので(価格もとてもお買い得だった)さっそく注文し、まずは「5番」とその練習風景、それに8番から聴いてみた。「5番」は1965年2月26日、練習はその前後3日間から、「8番」は同年3月19日録音とクレジットにある。
評判によると、オケの演奏レベルはあまり高いほうではなく、シェルヒェン指揮の演奏ぶりも相当常軌を逸した個性的なものらしいと言うことで、怖いもの聴きたさで購入してみた。音質はステレオで音の広がり感は悪くはないが、音圧感がやや平坦で薄く感じるものの、音質にさほど拘らなければ過不足はさほど感じないレベルか。それよりも高域のノイズ処理のやり方の都合上、演奏中の無音の部分はノイズが全くなく、少しでも音が収録されている演奏部分になるとまた「サーッ」という高域の付帯ノイズが発生し、全体がこの繰り返しなので、せっかくの演奏がぶつ切りに感じられるのがもったいない。
まずは「5番」だが、気迫のこもった冒頭の「運命の動機」に続いての小休止が異常に長く、ちょっとハラハラ感はあったが、演奏全体はそこまで「へたくそ」と言うほどひどくはないレベルではないだろうか。それは確かに超一流オケのスキのない完璧な演奏に比べれば、アラが目立つところはたくさんあるが、それはそれでなかなか味があって個性的な演奏ではないかと感じる。金管とくにホルンやTpは確かに所々、素っ頓狂な音に感じられなくもない。が、合奏全体としては「崩壊状態寸前」とまではなっておらず、ちゃんとした演奏に感じられる。所々、「合いの手」を入れるように指揮者が何か大声を出しているのが数カ所で確認できる。全体としては、超一流オケの洗練された演奏とはまったく別物の、身近な楽団が精一杯、熱のこもった気迫のある演奏にチャレンジしている感があって、好ましいものだと感じた。
ところが「8番」の第一楽章の常軌を逸したテンポは何ということか! たくさんの「8番」の演奏を聴いて来ているが、このような凄まじいスピードの演奏は、「個性」を通り越して「異常」である。普通の倍くらいはある恐ろしいほどのテンポで、怒涛のように通り過ぎる。一体、この曲のこの楽章で、このような表現をしたいという指揮者が、他にあるだろうか。その必然性がまったく理解できないのだが、強いて言えばこうした「唐突さ」で人を驚かせることを、ベートーヴェン自身がこの曲に込めたと考えれば、そこをデフォルメしたと言えなくはないだろうが、それにしても過激さは間逃れない。とは言え、ここでもオケの演奏は粗さは感じられるものの、「崩壊状態」とまでは至ってはおらず、十分に音楽的鑑賞が可能なレベルである。本当に文字通り「ドヘタ」な素人オケとは一線を画していることは感じられる。ひょっとしたら「キワモノ」的な演奏かと恐る恐る購入したものの、取りあえず「5番」と「8番」は、まだそこまでひどいものではないことを確認。さてこの後はまた、どれを聴いていこうか。あるいは曲によっては「崩壊寸前」のハラハラ感をもっと感じられたら、と内心期待しているところだ。