昨日の夕刊の片すみで映画「生きうつしのプリマ」の広告をたまたま見かけた。映画「ハンナ・アーレント」のマルガレーテ・フォン・トロッタという女流監督の撮った最近のドイツ映画というので、久しぶりに映画館に出かけて鑑賞してきた。
主人公のドイツ人女性が、一年前に亡くなった母とうりふたつの歌手がNYのMETで「ノルマ」を歌っているのを知って、一面識すらないその人に会いに行くというのが話の骨となっているようで、すわ「METが舞台の映画か!」「ベッリーニのノルマも話しに絡むのか?」というのも気になって、完全にそれに「釣られた」と言っていい。
結果的に、METを訪れるシーンはワンカットだけで、「ノルマ」の場面もほんのわずか出てくるだけで、あくまでも話の伏線としての部分であり、メインは隠された家族の謎を追っていくうちに、主人公も知らなかった思わぬ家族の秘密が明らかになって行く、と言うもの。今回はネタバレになることはやめておこう。METと「ノルマ」と、オペラに関わるテーマを期待して行くと少し肩透かしを喰らうかも、という程度で。「ハンナ・アーレント」という話題の映画を撮った女流監督にしては、話しの展開がややイージーで粗っぽく思えるところもいくつもあったのも、星二つは減。
ドイツ語の原題は「Die abhandene Welt」で、英語だと「Lost to the world」になるだろうか(ただし、この映画の英語タイトルは「The misplaced world」)。カルロス・クライバーの晩年を追ったドキュメンタリーに同じタイトルのものがあったが、マーラーの「リュッケルト歌曲集」のなかの「私はこの世に捨てられて~Ich bin der Welt abhanden gekommen 」から取られているのだろう。ノルマよりもむしろマーラーのほうが関連性が深いと思われる。実際、映画の中のワンシーンでこの詞が取り上げられていることからも、それはわかる。この世に自分の居場所がないことをはかなむ、ネクラで厭世的な内容の歌詞だが、交響曲第5番(また9番)にも共通するメロディが聴けるなど、マーラーらしい美しい曲である。ポケモン、ポケモンと狂騒する世界に、たしかに自分の居場所はない。そんな日に、映画館でこんなリュッケルトの詞を想うことになるとは、なんと言う皮肉なシンクロニシティであろうか。下は1989年ジェシー・ノーマン・NYフィル、メータ指揮の動画から。
追加 : アバド、コジェナーのルツェルン音楽祭からの動画
映画データ:
Production
(Germany) A Concorde Filmverleih presentation of a Tele Muenchen Fernseh/Clasart Film und Fernseh production. (International sales: Wild Bunch, Paris.) Produced by Markus Zimmer. Executive producer, Herbert G. Kloiber.
Crew
Directed, written by Margarethe Von Trotta. Camera (color, widescreen), Axel Block; editor, Bettina Bohler; music, Sven Rossenbach, Florian Van Volxem; production designer, Volker Schaefer; costume designer, Frauke Firl; sound (Dolby Digital), Michael Busch; assistant director, Anke Werner; casting, Sabine Schroth.
With
Katja Riemann, Barbara Sukowa, Matthias Habich, Robert Seeliger, Gunnar Moller, Karin Dor, August Zirner, Tom Beck, Arne Jansen, Rudiger Vogler.