【北京共同】中国国営通信、新華社は30日、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会会議が同日「香港国家安全維持法」を可決したと伝えた。同法は成立し、香港政府などは公布、施行に向けた手続きを急いだ。香港返還23年に当たる7月1日に施行する構え。今後は国家安全を巡る事案で、中国政府の出先機関による法執行が可能になる。香港では早くも民主派政治団体が解散を宣言するなど、萎縮し始めている。「一国二制度」は瀬戸際に追い込まれた。
香港メディアによると、常務委会議が30日午後、香港国家安全維持法を香港基本法の付属文書に加えることを決め、香港での施行が可能となった。
香港へは、97年の中国返還後に計5回ほど旅行で訪れている。南国特有の蒸しっとした空気、昔ながらの東洋のエキゾチックさと、現代的な高層ビル群のコントラストも面白く、ちょっとした休みに4日間程度で観光するのにも、九龍島と香港島の狭い地域のなかの要所要所に見どころがぎっしりとコンパクトに詰め込まれているようで、安心して行きやすい海外旅行先だった。宿泊するのは、尖沙咀のゴールデンマイル沿いの外資系のホテルが便利で使いやすかったけど、次に行けたらやはりペニンシュラか、香港島の新しいホテルにも泊まってみたいと思いながら、ここ数年はドイツとオーストリアへの音楽旅がもっぱらになってしまっていて、気がついたら最後に香港を訪れたのは、もう9年ほど前のことになってしまった。たくさん写真も撮影したが、現在のようにSDカードではなかったので、手軽にブログに取り込めないのが残念。他人が撮った写真はネット上に溢れているけれど。
長いあいだ、英国領だったせいもあって(一時日本の統治下にもあったが)、英語と中国語が入り混じった独特のカルチャーがあって、英語に拒絶反応のある日本人からすれば、同じ東洋でも香港は洒脱でハイカラな空気を感じたのではないだろうか。食事はおいしいのはもちろんのこと、ショッピングをするのにも雰囲気のよい高級店も入りやすく、とくにスイス製の高級時計については、ロレックスに限らず様々な人気ブランドの取り扱い店が日本よりはるかに多く、品揃えも圧倒的で充実していた。日本の百貨店では百数十万の値がついていたジラール・ペルゴのラージデイト・ムーンフェイズが、それより3割近く安く手に入れられたのは実に楽しい買い物だったし、ロジェ・デュブイのフラグシップ店の品揃えなどは、1千万円以上どころか、億ほどもするミニッツ・リピーターやダブルフライング・トゥールビヨンなどの高級コンプリケーション・ウォッチがごろごろ展示してあって、ため息が出たのを思い出す。もちろん、出したのはため息だけだったけど、さんざん褒めまくっていたら店員が気をよくしたのか、分厚いハードカバーの美しい最新カタログを記念にとプレゼントしてくれたのは、本当にありがたかった。
香港島のほうも、セントラルの賑わいやトラムで往復するヴィクトリアピークの山上の展望台から見下ろす香港の景色は、日中も夜景も、観光地の風景としては世界でも指折りの美しさと開放感があって、香港に来れば必ずここを訪れずにはいられなかった。トラムでなくバスで山上を往復すると、山の上のほうは高級住宅地となっていて、まぁ、別世界だった。バスでは、南岸のレパルス・ベイにも気軽に行ける。映画「慕情」のロケ地として有名な景勝地だ。市内を縦横に走る二階建てトラムもレトロ感があって観光気分も盛り上がる。こんな楽しく美しい観光地は、アジアの観光地としても最高の場所だと、行くたびに感動していたものである。中国には返還されたが、50年間は一国二制度で高度な自治が保障されていると当時から聞いていたし、事実訪れていた当時は確かに自由があって、寛容な都会の島だった。ただ、中国本土からの人口流入のせいで、マンションの価格が暴騰していて、むかしからの香港住民が隅に追いやられつつあるというニュースは気にはなっていた。
その美しい香港が、こうも無残に破壊されて行くのを目にするのは、見ていて忍びない。暴動で商店が破壊されることだけではない。「自由」だった香港の「精神」が、中央政府の意を受けた警官のゴム弾やこん棒で、叩きのめされて行く。どうして他人事に思えようか。香港を愛した人であれば、涙なしにこの光景は見てはいられまい。戦争や爆撃で、美しい街が一夜にして焦土となって消滅してしまうことは、歴史を見れば各地で起こっている。高校生の頃によく中東情勢のニュースで耳にしたレバノンのベイルートなども、交戦による砲撃で壊滅状態となったが、かつては「中東のパリ」とも言われた美しい街だったと聞いた。しかしいま香港で起こっているのは、美しい街の風景は(大きくは)そのままだが、「精神」が徹底的に破壊されて行くのを、目の当たりにしていることだ。この一年でこうも強権的な手段により、自由な精神がどんどん破壊され、奪われて行く。抵抗していた学生たちも、ついには白旗を揚げざるを得なくなった(ハフポスト記事)。遠く日本からやきもきしながらも、自分としてはなにも出来ないもどかしさばかりが募る。街の景色は前と変わらなくても、「自由」という spirits がなくなってしまった香港に、もはや観光で旅行する気分になれるだろうか?