grunerwaldのblog

バイロイト音楽祭やザルツブルク音楽祭など、主に海外の音楽祭の鑑賞記や旅行記、国内外のオペラやクラシック演奏会の鑑賞記やCD、映像の感想など。ワーグナーやR・シュトラウス、ブルックナー、マーラー、ベートーヴェン、モーツァルトなどドイツ音楽をメインに、オペラやオペレッタ、シュランメルン、Jazzやロック、映画、古代史・近現代史などの読書記録、TVドキュメンタリーの感想など。興味があれば、お気軽に過去記事へのコメントも是非お寄せ下さい。

2021年11月

2021年11月26日(金)午後12時45分~
京都・瑠璃光院
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(クリックして大きい画像でより鮮明に見れます)
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韓国の全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領が11月23日にソウル市内の自宅で死亡したことが報じられている。90歳。

日本人であっても一定の世代以上で、近現代史にいくらかでも関心のある人にであれば、ある程度その名前や経歴が知られていても不思議ではないだろう。1979年10月26日に朴正熙大統領(当時)が腹心の金載圭に射殺されるという事件以降、保安司令官として捜査を担当する過程で同年12月12日には戒厳司令官(当時)で自分の上官でもあった鄭昇和大将を逮捕し、急速に実権を掌握して行く(12・12クーデター)。翌1980年5月には非常戒厳令を全国に拡大させ、市民らの反発や抵抗が激しかった全羅南道光州市に軍を投入し、武力で鎮圧した。それにより市民や学生らに多数の死傷者が出たとされているが、その後の北京での天安門事件(1989年)と同様に正確な実数はいまだに把握されていない。軍の中心的人物だったとは言え、完全に軍を私兵的に動かしており、そのやり方は内戦すら招きかねない危険なものだった。こうした強硬策を通じて国内の全権を掌握して行き、同年9月1日に大統領に就任する。

光州事件が起こった当時、自分は平和そのものの日本から翌年に受験を控えた高校生としてTVや新聞のニュースでそうしたことを伝え聞くばかりだった。日本では安保闘争と言われる学生運動もはるか10年以上前には下火になっていて、若者は政治よりも消費に熱を上げる風潮がより強くなっていた。そういう自分もご多聞に漏れず、初代ウォークマンを早々に手に入れては教室に持っていき、休み時間には友人に自慢していた世代である。そんな風だったから隣国の軍事クーデターとそれに続く軍の大規模弾圧など想像すらできなかったが、なにか尋常ならざる重大な事態が起こっているということだけは理解できた。ただ、光州事件とは言っても、いまその瞬間にその地でなにが起こっているかの詳細は、軍により完全に情報が遮断されていたので詳しいことはタイムリーにはよくわからず、寺尾聡の「ルビーの指環」のヒットとともにそんなこともいつしか忘れて年明けの2月には受験シーズンも始まって、それどころではなくなってしまっていたことを、後になって思い出す。

後に大学も卒業して4,5年ほど経った頃になって、国内では天皇が崩御してえらい自粛ブームが起こるわ、6月には北京で光州事件を上回る規模の軍の大弾圧(天安門事件)は起こるわ、11月にはベルリンの壁が崩壊して東西冷戦が終わるという衝撃的なニュースが世界を揺るがすわで、世の中がひっくり返ったような事態が、1989年という1年にいっぺんに起こった。これはもう、相当冷静な人でも、あわあわと浮足立たずにはいられない1年ではなかったろうか。隣国の近現代史の書籍を読んで、日本統治時代から光州事件あたりまでを学習し直したのも、そうした頃だった。

第五共和国

本は何冊も読んだが、やはり映像エンタテインメントとして面白く作り込まれたものにまさるものはなく、2006年頃にDVDで観た韓国MBCの「第5共和国」はこの全斗煥の時代を実に面白くわかりやすく描いた連続ドラマで、全41話を見終わるまで、毎回次回を見るのが待ち遠しかった。レンタルで全巻見終わってから、ネットでレンタル落ちの全巻セットをたしか1万円から1.5万円程度で即買いした。現在は全5枚に編集されたものが、2万5千円程度で入手可能なようだ。

先月10月26日には陸軍士官学校で全斗煥と同期生だった盧泰愚(ノ・テウ)元大統領もソウル市内の病院で88歳で死亡しており、彼を追うようにして全斗煥も世を去った。ともに元大統領経験者とは言え、軍事政権で暗黒面の多かった二人に対して、韓国社会はどのような別れ方をするのだろうか。


世の中、自分が知っている人間の数など世界全体の人口の数からしたら水のひとしずくにも満たないが、ネット上に存在する動画もいまや膨大なもので、自分が見聞きできる範囲のものなどたかが知れている。そんななかでたまたま見て知った Youtubeの動画も、よほどの偶然でもなければ一生巡り合うこともなく知らないままだったとしてもおかしくはない。と言うか、それがほとんどだろう。

今回偶然見かけた動画も、自分からサーチして発見したものでもなんでもなく、まったくの偶然から知ったものであり、そのきっかけももうなんだったのか、まったく覚えていない。その動画は「Less Common Instruments」と題された Youtube動画で、自分は今までまったく知らずにいたけれども、12万いいねがつけられているので、結構人気の動画なのだろう。楽器好きの方ならすでにご存じの動画なのかもしれない。

普段の演奏会ではほとんど目にすることがない珍しい楽器の動画を編集したものだが、冗談やいたずらで製作した楽器というわけではなくて、ちゃんとした演奏をすることが目的でつくられた、れっきとした演奏用の楽器であるらしい。自分も中学生の頃はバリトン・サックスをやっていたし、ジャズではジェリー・マリガンなんかもいたからバリトン・サックスまでは知っていたけれども、バス・サックスまでは動画も含めて見たこともなかったし、ましてやサブ・コントラバス・サックスフォンなど、そんなものが世の中に存在していたことなど思いもよらなかったし、だいたい、どういう状況でこういう楽器が必要とされるのだろうか。持ち運びはまずできなさそうだし、そもそもサックスフォンというリード楽器は超低音域を担うには効率が悪い楽器のような気がする。百聞は一見に如かずで実際にその画を見れば、これがいかに巨大な大きさかが一目瞭然だ。この楽器を通常のアルト・サックスのサイズ感として見ると、プレイヤーの男性はそれにへばりついている小人のような錯覚になって思わず笑ってしまう。

動画の一番最初のピッコロ・フルートなどは珍しいこともなんでもなくて当たり前の楽器だが、バス・フルートは珍しいだろうし、ひいてはサブコントラバス・フルートって、それ、音らしい音って出ているのか(笑)。チャルメラのようなG管の小さいクラリネットはウィーン音楽のシュランメルンではよく見かけるが、コントラバス・クラリネットは知らなかった。「くるみ割り人形」の耳に馴染んだ演奏は、バス・クラリネットじゃなくて、コントラバス・クラリネットが指定楽器なの?ピッコロ・トランペットの音などはあまり驚きは感じないし、バス・トランペットってのも、ピストンタイプのトロンボーンと言われたら気がつかないかも。ピッコロ・トロンボーンもなんだかおもちゃみたいだけれども、コントラバス・トロンボーンなんかはファフナーの洞窟あたりの不気味な音楽には使えそうな感じ。冗談みたいだけど、冗談だけではこんな楽器をわざわざメーカーが製作する気にはなれないだろう。宣伝活動と言っても、宣伝広告費であればもう少し効率的な使い方をするだろうし。


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自分にはしては珍しく、濃厚なフランスもののオペラのCDを購入して聴き、久しぶりに大きな感動を味わった。ジュール・マスネ作曲「エロディアード」で、この作品自体も上演頻度は多くなく、入手可能なCDの種類も限りがあり、入手もやや困難な部類に入るようだ。ブルーレイやDVDなどの映像も出ていない。今回は日本の通販サイトでCDを購入したが、発送元はスイスとなっており、手元に届くまで11日間を要した。1994年11月にサンフランシスコ・オペラで収録されたライブ録音で、もとは1995年にSONYから発売されていたようで、今回入手したのは2013年に newton classics から発売されたもの。比較的近年の録音のもので他の選択肢は、やはり94年に録音されたミシェル・プラッソン指揮トゥールーズ・キャピトル管演奏のものか、マルチェロ・ヴィオッティ指揮ウィーン国立歌劇場演奏のものくらい?

いちおう、演奏者を先に紹介しておくと、ファニュエル:ケネス・コックス、サロメ:ルネ・フレミング、エロデ王:ファン・ポンス、エロディアス:ドローラ・ザジック、ジャン:プラシド・ドミンゴ、ヴィテリウス:ヘクトール・ヴァスケス他、ヴァレリー・ゲルギエフ指揮サン・フランシスコ・オペラ・オーケストラ&合唱団。

マスネのグランド・オペラの大作「エロディアード」(Herodiade)。サロメの生みの母親であり、ヘロデ王(ここではエロデ王)への後妻としてリヒャルト・シュトラウスのオペラ「サロメ」にも登場する「ヘロディアス」のフランス語読みがそのタイトルとなっていることからもわかるように、「サロメ」と同じ素材から作曲されたオペラだが、オスカー・ワイルドの戯曲をもとにしたR・シュトラウスの「サロメ」とはかなり異なるストーリー展開であり、当然だが曲の雰囲気も大きく異なる。ともに原典となっているのは、ギュスターヴ・フローベールによる小説「三つの物語り」のうちの「Herodias」(1877年)で、マスネのほうはこれをもとに Angelo Zanardini によるイタリア語のリブレットから Paul Millet と Henri Grémont によってフランス語訳のグランド・オペラに仕上げられた。

CDにリブレットはついていないが、George Hall氏による解説がわかりやすい。それによると、この作品はシュトラウスの「サロメ」(1905年初演)よりも24年も早い1881年12月19日にベルギーのモネ劇場で初演され好評を博し、フランスでは1883年3月29日にナントで初演され、パリで初演されたのは1884年2月1日、 The Theater Italian にてイタリア語で上演された。本元のパリ・オペラ座で上演されたのは作曲者の没後9年を経た1921年となってからで、当時すでにこうしたグランド・オペラのスタイルは流行遅れとなっていた。その後は上演される機会は稀で、1970年代、80年代にリバイバルで上演されるようになり、その流れのなかで1994年にこのサン・フランシスコ・オペラでの上演と録音の機会を得た。マスネは当初はパリ・オペラ座にこの作品を持ち込んだが、音楽は評価されたがリブレットが弱いとしてオペラ座の監督により却下され、次にたまたま持ち込んだモネ劇場の監督には受けがよく、ブリュッセルで初演されるという運命となった。

自分も遅まきながらこのオペラを知るきっかけとなった1976年の映画「マラソンマン」のなかのワンシーンで、主人公の一人(ロイ・シャイダー)が取引相手と落ち合う場所としてパリのオペラ座が印象的に使われる場面がある。マスネの「エロディアード」の中の一節(第3幕第1景、ファニュエルによる Dors, ô cité perverse! ー眠れ、邪まなる街よー)が不気味に流れるなか、彼が遅れてパリ・オペラ座の大階段を急ぎ足で上がって行き、指定されたロジェ(ボックス席)の一室に着くと相手の男が喉を掻き切られて殺されているというおぞましい場面と、この曲のおどろおどろしい雰囲気がぴたりとマッチしていて、なんというセンスのいい音楽構成の映画だろうかと舌を巻いたのも、上述のような流れと無縁ではなさそうだ。はじめて聴く音楽だったが、幸いエンドロールにこの曲名と演奏者(John Matheson 指揮 Royal Opera House Covent Garden Orchestra演奏)がクレジットされていて、CD購入の参考になった。映画で使用されたのはあくまでもサウンドトラック用のみの短い演奏らしく、オペラ全曲の商品は見当たらなかった。とにかく、フレンチ・オペラらしいおどろおどろしさにぐっと惹かれて、すぐに全曲のCD購入と言う流れとなった。できればわかりやすい映像のブルーレイかDVDがあればよかったのだが、そのぶんCDの迫力あるサウンドで音楽を聴けたのはよかった。

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R.シュトラウスの楽劇のほうのサロメは、聖者ヨカナーン(ここではフランス語でジャン)を愛すも拒絶されてその首を所望し接吻する倒錯した狂人として描かれるが、マスネの「エロディアード」のサロメは、ひたすら最後までジャンへの純愛を貫く少女であり、最後にジャンが刑死したこととエロディアスが実母であることを知ると、エロディアスの短剣を自らの胸に突き当てて息絶えるという純愛物語となっている。ジャンもはじめは彼女の愛を拒否するが、最後にはその愛を受け入れ自らもサロメへの愛を打ち明ける。いっぽう、サロメの義理の父のエロデ王はシュトラウスの楽劇のヘロデ王よりも終始もっと激しい彼女への愛と執着心を持った権力者として描かれている。第2幕第1景ではバビロンの乙女から妙薬を奨められてそれを飲むとサロメの幻影が浮かんでは消え(Vision fugitive et toujours poursuivie)、サロメへの思いに錯乱しているところ(こういう部分はグノーの「ファウスト」とも似ている)を側近の星占述師ファニュエルから、ローマとの戦となるやもしれない大切な時に、もっとしっかりせんかい!とたしなめられる(このファニュエルはシュトラウスの「サロメ」には出て来ないが、バスで存在感のある役どころだ→できればサミュエル・ラミーの演奏があれば最高だが)。最後には、サロメが自分になびかずジャンへの愛を打ち明けると、嫉妬に狂ってジャンとサロメのふたりに死刑を命じる(のちにまだ思いの残るサロメのほうはこっそりと除外させる)。タイトルロールのエロディアスは強力なメゾソプラノで、捨てた実の娘への母親としての心情と、その娘が夫の愛を奪っているライバルであることへの強烈な敵愾心とを同時に表現する必要がある難役ではあるが、ひとつの作品としてこれをタイトルロールとするについては、たしかにパリ・オペラ座で脚本の弱さを理由に却下されたのが、なんとなくわかるような気がする。

あまりよく知られた部類の作品ではないため、どういう作品かを知るにはやや努力が要るが、このCDの上記した英文の解説と、「オペラ対訳プロジェクト」にこの作品のフランス語の原詩が翻訳されずにそのままの状態で掲載されており、これを部分ごとにコピペして(どこが「努力」やねんw)グーグル翻訳で英文に訳すと、非常にわかりやすい訳文が一瞬で表示される(5千字を超える長文も、矢印の次ページをクリックすれば難なく続きの文章につながるので便利になったものだ)。ただし日本語への変換はいまだまったく使い物にならないのでお奨めできいない。

それよりも何よりも、まずは音楽だ!久々に長大なフランス語のグランド・オペラを、一曲通してはじめて聴くという体験に、ゾクゾクとする。そして、その音楽が、期待の通り美しい部分は美しく、それよりもおどろおどろしいところは、よりおどろおどろしくミステリアスで不気味なサウンドと響きで、深層心理にグイッと惹きつけられる!オケ・歌手の演奏とも非常に強力で素晴らしく聴きごたえがあり、合唱も大変よく、第3幕第2景の Holy March に続く合唱の、なんと神秘的で美しい表現力であることか。ゾクゾクとした。最近あらためて聴き直したエネスクの「オイディプス」に続いてマスネの「エロディアード」で、なかなかミステリアスなオペラ体験を堪能した。

このCDとは無関係でオケの演奏もショボいが、歌は良いしYoutubeで拾える素材は少ないようなので、これを例として挙げておこう




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