現世代のコロラトゥーラの女王として日本でも人気が高かったソプラノのエディタ・グロベローヴァが亡くなられたことを知った。死因は非公表で、まだ74歳だったらしい。自分が90年代にイタリアオペラを聴き始めた頃には、すでに人気絶頂という印象だった。実演で聴いたのはいずれも日本公演で、96年のランメルモールのルチア(メータ指揮フィレンツェ歌劇場管:東京文化会館)、2000年シャモニーのリンダ(カンパネッラ指揮ウィーン国立歌劇場管:NHKホール)、02年清教徒(ハイダー指揮ボローニャ歌劇場管:びわ湖ホール)などだが、なんと言っても96年のメータ指揮、マリエッラ・デヴィーアとのダブルキャスト、スコットランドの荒野を舞台にしたグレアム・ヴィックの演出で聴けたランメルモールのルチアでの題名役の「狂乱の場」最後の、競技大会のような超絶高音の絶唱が最も印象に残っている。録音で聴ける過去のベル・カントの女王と違って、現役世代で聴けるコロラトゥーラの女王として素晴らしい歌唱を聴かせてくれた。
思えばワーグナーに没頭する以前、90年代からミレニアムの頃にかけては、今よりもずっと熱心にイタリアのベル・カントオペラを愛聴していたものだ。例えば「マリア・ストゥアルダ」だけでも4、5種類のCDがあるし、「アンナ・ボレーナ」や「ルチア」や「ノルマ」もそんな調子だ。当時はブログなどやっていなかったので記録がないが(パソコン通信というのがあったが)、あったとしたらこのブログのイタリアオペラのカテゴリーももっと賑わっていたことだろう。モンセラート・カバリエ、マリア・カラス、レナータ・スコット、レイラ・ゲンチャー、エレナ・スリオティスなど、ぞっこんになっていた歌手も数多い(ジョーン・サザーランドとボニングのCDも勉強になったけど、ちょっと教科書的で燃焼感が薄く感じたーやはりイタオペはライヴ録音に限る)。
そんななかで、エディタ・グロベローヴァのCDでは写真の「アンナ・ボレーナ」の印象がもっとも強く残っている。演奏はボンコパーニ指揮ハンガリー放送響で、94年ウィーンでのライブ録音。ちょっとリブレットの落丁ぶりが甚だしすぎて唖然としたが(笑) ホセ・ブロス(テナー)のパーシー卿、ステファノ・パラッチ(バス)のヘンリー8世など、男声陣の充実した演奏も印象深い。久しぶりにまた聴いてみようか。
素晴らしい歌唱で魅了してくれたコロラトゥーラの女王に哀悼の意を表したい。