grunerwaldのblog

バイロイト音楽祭やザルツブルク音楽祭など、主に海外の音楽祭の鑑賞記や旅行記、国内外のオペラやクラシック演奏会の鑑賞記やCD、映像の感想など。ワーグナーやR・シュトラウス、ブルックナー、マーラー、ベートーヴェン、モーツァルトなどドイツ音楽をメインに、オペラやオペレッタ、シュランメルン、Jazzやロック、映画、古代史・近現代史などの読書記録、TVドキュメンタリーの感想など。興味があれば、お気軽に過去記事へのコメントも是非お寄せ下さい。

タグ:ミヒャエル・ハンペ

神々0307


コロナ禍中となった今年3月7日と8日に大津市のびわ湖ホールで無観客で上演されたワーグナー「神々の黄昏」の映像が、びわ湖ホール制作のブルーレイディスクとして発売された。この演奏の模様は、上演日の当日・同時刻に Youtube でライブ配信され、実際にチケットを購入した客数をはるかに超える数万人が視聴したことで話題にもなった。その時の映像は、モニター用の固定カメラ1台だけによる全く工夫のない定点映像のみだったので少々期待外れなものであったが、今回発売のものは、日経新聞の記事によると「動画配信の固定カメラとは異なり、高精細のカメラ3台で別途撮影したものを編集した」とあるので、少しは歌手の表情がわかるアップの映像や角度の工夫も期待は出来そうなので、さっそく注文をした。

びわ湖ホールのHPでの紹介によると、7日と8日それぞれ別売で、DVDではなく、より画質のよいブルーレイディスクのみの発売で、それぞれ1万円の価格設定となっている。なので、7日と8日の両方を注文すると、計2万円となる。単体のブルーレイディスクの価格としてはかなり高額となるが、チケットが全額払い戻しとなって大きな赤字となったコストを少しでも補填するための、半分は寄付の意味合いが大きいだろう。本来ならば、会場の良い席で2日とも鑑賞していたはずの関西での本格的なワーグナー上演、それも「ニーベルンクの指環」の完結編となる公演だったので、まぁ、2万円のうちの半分は寄付だと思っても、この際仕方あるまい。7日はクリスティアン・フランツによるジークフリートだし、8日は池田香織さんによるブリュンヒルデなので、どちらも外すわけにもいかない。

こうした経緯による自主制作の「神々の黄昏」のブルーレイとなるので、それほど大量には発売はされないだろうし、珍しい部類にはなることだろう。7日と8日のキャストは以下の通り。

①、3月7日のキャストによる商品説明
②、3月8日のキャストによる商品説明

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毎日マラソン大会とともに、びわ湖に春の訪れを告げる吉例の祭典(となることを願う)「びわ湖リング」の第二弾「ワルキューレ」公演を今年も3月3日と4日の二日間、鑑賞して来た。いや、ほんとに、4年間の「リング」が終了しても、このままこの時期にワーグナーに特化した本格的な音楽祭として続けてほしい。「びわ湖ワーグナーターゲ」とまで言ってしまうと、本場のワグネリアンからは叱られるだろうか。

昨年の「ラインの黄金」も二日間とも鑑賞し、本格的で立派な演奏に一定の満足感を得たことはまだ記憶に新しい。昨年の記録を見てみると、本格的で素晴らしい演奏ではあったけれども、全体としてもの凄さに圧倒されるまでにはあと一歩何かが足りなく感じたのが率直な感想だったが、今回の「ワルキューレ」の二日目の演奏は大変燃焼度が高く文句なしにパワフルな演奏で、昨年の「ラインの黄金」二回と今回の「ワルキューレ」二回の計四回の演奏のなかでは、もっとも満足度の高い演奏であった。それは間近から見る沼尻氏の豹変したような指揮ぶりを見ても、一目瞭然だった。逆に、何だったのよ、初日の安全運転は?と思うくらいだった。初日と二日目でこんなに燃焼度合に開きがあってはいかんだろうと言うのが率直な思いだが、そこがナマものの演奏の良さでもあるので、とりあえず二日目も買っておいてよかった。あ!そういう作戦か?!

初日、二日目とも充実した歌唱が聴けて個人的にブラヴォーだったのは、なんと言ってもブリュンヒルデのステファニー・ミュターと池田香織さん、ジークリンデの森谷真理さんと田崎尚美さんだった。特にブリュンヒルデはステファニー・ミュターは声量が文句なしに素晴らしかったし、池田さんの表現力も素晴らしかった。ジークリンデも二人ともよかった。ヴォータンのユルゲン・リンと青山貴さんも悪かろうはずのない名ヴォータンなので安心して聴けた。ジークムントのアンドリュー・リチャーズはそれらに比べるとまあ、普通。同役の望月哲也さん、一幕はよかったんだけど、二幕目の途中、ブリュンヒルデとの絡みのあたりからちょっと喉がつっかえたような感じで声量がやや落ちたような気が。フンディングの斉木健詞さんと山下浩司さんともに凄みのある低音だが、山下さんの憎々しい演技力と歌唱力が印象に残った。フリッカの小山由美さん、中島郁子さんとも、ヴォータンを尻に敷くおっかなさがよく表現されていてうまかった。8人のワルキューレたちも、なんともレベルの高いワルキューレで、非常に聴き応えがあった。ひょっとしたら今まで聴いたワルキューレ姉妹のなかでもっとも印象に残ったかも。思わず、めっちゃうまいやん、と口に出かけたくらいだが、どうも二日目聴いた時に、ひょっとしたらわずかにPA使ってる感がなきにしもあらずと感じられた。もしそうなると、そこまでは持ち上げることはできない。沼尻指揮京響の演奏は、いまも言ったように初日と二日目の差が大きすぎ。二日目の演奏を基準に言えば、パワフルで濃厚かつ繊細さ、しなやかさもあり、非常にレヴェルの高い演奏が聴けたので、うれしくなった。このようなハイレヴェルの演奏で、今後の「ジークフリート」と「神々の黄昏」まで乗り切って行ってほしいものである。

そして演出と美術・衣装は、昨年の「ラインの黄金」にひき続いて、ミヒャエル・ハンペとヘニング・フォン・ギールケの二人。昨年と同じように、舞台上の大きなセット以外はほぼすべてCGで賄うやりかたで、基本的に大きな差はないが、「ラインのー」に比べると、いかにもCGを駆使しているという印象は抑えられたような気がする。まあ、「ワルキューレ」は音楽そのものが聴きものであるので、それほど過剰な説明は必要ないと言えばそのような気がしないでもないが。それにしても、技術的には最新のCG、プロジェクションマッピング使用しながらも内容はまったく古典中の古典的なアプローチなので、奇抜で斬新な演出方法が幅を利かせる昨今のワーグナー上演にあっては逆に言えば新鮮と言えば新鮮だろう。「原点に立ち返る」という便利な表現も使えるけど。一部に演出に対してブーイングも聞こえたけれども、奇抜な舞台が見たかったら、そりゃあーた、バイロイトだかベルリンだか東京だか、どこでも好きなところで観てくればいいんでないの?ここは、あーた、滋賀ですよ滋賀w 関西と言っても、大阪でも兵庫でも京都でもないんだから。オケだって、ここの地元では京響レベルのオケなんてとてもない所ですよ。こういう、ワーグナーに毎年で取り組もうってだけでも、それだけでもうじゅうぶんに文化的挑戦ですからw いや、地域性だけじゃなくて、客層も随分と高齢層が多いのが事実だし、チケットの価格だって、SSで二万以下って昨今のオペラでは良心的なほうでしょう。休憩時にホワイエで、おでんの具か和菓子の表面に金箔を貼ったような「黄金の指環」がテーブルに展示されていて、何ですかと尋ねると、本リングプロジェクトに一口30万円の個人寄付をしてくれた方に進呈する記念品です、との回答。涙ぐましい営業努力じゃないですか(泣) なにしろ大きなスポンサーと言えば、地元の銀行さんとかスーパー、ホームセンター、和菓子店くらいなんですから。まあ、諸々の事情を考慮すれば、この価格でこれだけの上演が出来れば、大した成功に間違いないし、実際に独墺や東京で度々ワーグナー上演を体験している目と耳からしても、じゅうぶんに見応えと聴き応えのあるものだったことは間違いない。

一幕最初はジークムントとその追手がさまよう吹雪の森の風景がCGで大映しされるのは予想の通りにしても、舞台の前方と奥の方の両方にこれだけ大きなスクリーンで映写されると、非常に立体感と迫力がある。うまいなあと思ったのは、ジークムントが逃げこんで来る時とフンディングが帰って来る時に扉を開けると、外の激しい吹雪の映像がリアルに見え、雪片がヒューと舞い込んでくる。そしてその後、まったくト書きの通りその扉がバタンと開き、ジークムントとジークリンデの「冬の嵐は消え去り」の感動的な二重唱へと繋がると同時にそれまでのフンディングの家屋のセットが上下に消え去り、春の夜の野原の場面に変わる。今回は全体を通してセットの転換は最小限度だが、押さえるところは押さえてるじゃないか、と感じる。

二幕のヴァルハラでのヴォータンとフリッカのやりとりは、さながら宇宙空間を背景にした壮大なる規模の夫婦の痴話喧嘩といった風情。なんのことはない、これもCGじゃないかとは言っても、よく見ていると星々もそれぞれかすかに動いていたりして、凝っているのがわかる。そのあとのジークムントとジークリンデが逃げる途中の山の場面は一転して荒涼たる風景で、原曲のイメージ通り。一事が万事この通り原曲のイメージ通りの展開で、本当に教科書のようである。

三幕もその通りで、舞台中央に斜めに切り立った巨大な岩山のセットがあり、ワルキューレたちがこれを上ったり下りたりして歌い、最後にブリュンヒルデがヴォータンに抱かれてこの岩山の頂を枕に横たえられ、彼の愛を受けながらも最後の接吻で神性を奪われ、長い眠りにつく。ここまで忠実にオリジナルのイメージ通りの舞台進行で演奏が素晴らしいと、なんら鑑賞の妨げになるものはないようで、多くの観客が涙腺を緩くしている雰囲気がありありと感じとられたし、自分の胸にも熱い感動が込みあげてきた。ただ、最後に演出で少々歌手に酷だなと感じたのは、その場面でのヴォータンの独唱を岩山のセットの天辺で歌わせたことで、そのセットの上にはもはや声を反響させるものが何もないので、だだっ広い運動場で大声で歌わせるようなものでまったく声が空間に散ってしまって響かない。これがこの岩山の下であれば、そのセットが反響材となって客席側にしっかりと響くのである。帰り際に近くのご婦人が、さすがのヴォータン役の歌手さんも最後はちょっとお疲れだったのか、声が小さく聴こえたと仰っていたが、反響するものがあるとないとでは、条件が違うので、これは歌手には気の毒な演出だと思った。

それにしても、実に質の高い本格的な「ワルキューレ」の上演で、素晴らしかった


指 揮:沼尻竜典(びわ湖ホール芸術監督)
演 出:ミヒャエル・ハンペ
美術・衣裳:ヘニング・フォン・ギールケ
照 明:齋藤茂男
音 響:小野隆浩(びわ湖ホール)
演出補:伊香修吾
出演:
3日
4日
ジークムント
アンドリュー・リチャーズ
望月哲也
フンディング
斉木健詞
山下浩司
ヴォータン
ユルゲン・リン
青山 貴
ジークリンデ
森谷真理
田崎尚美
ブリュンヒルデ
ステファニー・ミュター
池田香織
フリッカ
小山由美
中島郁子
ゲルヒルデ
小林厚子
基村昌代*
オルトリンデ
増田のり子
小川里美
ワルトラウテ
増田弥生
澤村翔子
シュヴェルトライテ
高橋華子
小林昌代
ヘルムヴィーゲ
佐藤路子*
岩川亮子*
ジークルーネ
小林紗季子
小野和歌子
グリムゲルデ
八木寿子
森 季子*
ロスワイセ
福原寿美枝
平舘直子
*...びわ湖ホール声楽アンサンブル・ソロ登録メンバー
管弦楽:京都市交響楽団

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